2011年12月16日金曜日

『大学受験必修 物理入門』と『福島の原発事故をめぐって』の間

3.11原発事故を受けて、様々な“原発本”が出版されている。
その中でも、『福島の原発事故をめぐって』は書評などでも取り上げられ、多くの人が手に取った本ではなかろうか。(もちろん、私もその一人)
著者の山本義隆氏は、誰がなんと言おうと、私にとっては、「山本先生」なのである。
駿台予備学校で1年間にわたって物理の授業を聴いた。物理の面白さと美しさと難しさを再認識させてくれた先生である。「紙と鉛筆を持ってひたすら手を動かして計算をせい」と、つねづね口にしていた姿が昨日のように思い出される。
「科学史家」、そして「元東大全共闘議長」「学生運動の闘士」…などといった枕詞よりも、私にとっては物理の先生だ。

で、その山本先生の授業を1年間聴くに際し、常に手元においていたのが『物理入門』である。(大学に合格できたのもこの本のお蔭かも。)
大学入学後も、この本はずっと手元に置き続けている。『福島の原発……』と並べ、久々にページを手繰ってみた。
その本の最終頁には、こうある。
(「原子核について」という節が最終節なのである。)
(物理の授業は、力学から始まり、熱学、波動、電磁気学などと進み、最後は、現代物理を学び、原子核で閉じる、というのが一般的――今もそうではないかと思う)

「……水素爆弾や原子爆弾の非人間性はいうまでもないが、原子炉も、一度事故が起これば放射性物質を広範囲にまき散らし、その危険性は、その及ぶ規模と期間において他の事故とは比較にならないほど大きい。
のみならず、原子炉は質量をエネルギーに変えていると通常いわれているが、正しくは、結合エネルギー(質量欠損)のわずかな差をエネルギーに変えているのであり、質量数(核子数)自体は保存するので、エネルギーを取り出しても核子の総数は変わらず、それらが放射性原子核として残され、原子炉を運転すればするほど危険な放射性廃棄物が生み出され、そのつけを子々孫々に残すことになる」

受験参考書の本文が、こう締めくくられているのだ!

私が手元に持っているのは、1991年2月の初版9刷。改訂を重ねて今も駿台生には必携であろう最新版もこの部分は不変であった。

山本先生は、ずっと言い続けてきたのだ。予備校の教壇から、未来の原子力エリートに対しても伝え続けていた。
『福島の原発……』を一気に読み終えたが、その語り口は静かであるからこそ、深く考えさせられるものがある。『物理入門』と何ら変わりはない。
手元にあるこの2冊の間に、何ら矛盾も齟齬もない!

表紙を開いた見返しに、山本先生からいただいたサインが残っている。
「吉田真也兄 著者 山本義隆 一九九二年一月三一日」
このサインの入った『物理入門』をお守り代わりにして受験会場に向かった日から、間もなく二〇年が経つ。

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